『mono』の視線で切り取る、世紀の大事業。扇沢駅から電気バスで挑む「黒部ダム」ひとり旅

中部

旅の始まりは扇沢駅から。電気バスで未知のトンネルへ

信州の山深く、標高1,433mに位置する「扇沢駅」。ここが黒部ダムへの実質的な玄関口です。以前はトロリーバスが走っていましたが、現在は最新の「電気バス」が運行されています。

『mono』の聖地として歩く、静かな興奮

あfろ先生の漫画『mono』でも、シネフォト部の面々が訪れていたこの場所。彼女たちが360度カメラを構えてワクワクしていた姿を思い出しながら、私も列に並びます。一人旅だと、バスを待つ間の喧騒さえも「これから何が起こるんだろう」という期待を膨らませるためのスパイスになります。

青い光の「破砕帯」を抜けて

バスが発車し、全長約6.1kmの関電トンネルへと吸い込まれます。トンネルの中は夏でも10℃前後。窓がみるみる曇り、ひんやりとした空気が肌を刺します。
途中、青い照明で照らされる「破砕帯」を通過する瞬間、かつてここを素手で、あるいは重機でこじ開けていった男たちの執念を感じずにはいられません。静かな電気バスの走行音が、かえってその歴史の重みを際立たせているようです。

圧倒的なスケールに言葉を失う。「ダムの王者」との対峙

【写真なし】220段の階段。自分を追い込んだ先のご褒美

黒部ダム駅でバスを降りると、そこはすでにダムの内部です。ここから展望台へ向かうには、約220段の階段を上らなければなりません。

残念ながら、その階段の様子を伝える写真はありません。なぜなら、その時は写真を撮る余裕なんて微塵もなかったからです。 ひんやりとした地底のトンネル内に、自分の足音と荒い呼吸だけが響く。一歩ずつ階段を刻むたびに、太ももに乳酸が溜まっていくのを感じます。一人旅の醍醐味は、誰にも急かされず、自分のペースで自分を追い込めること。

「あと少し、あと少し……」と、自分と対話しながら登りきった展望台のデッキに出た瞬間、その疲れは一瞬で吹き飛びました。

展望台から見下ろす、動と静のコントラスト

目の前に広がるのは、高さ186mの巨大なアーチ。そして、足元から轟音とともに噴き出す観光放水。舞い上がる水しぶきが太陽の光を浴びて、綺麗な虹を作っていました。
視線を上げれば、北アルプスの荒々しい山並み。視線を下げれば、どこまでも深く、静かなエメラルドグリーンの黒部湖。この「動」の放水と「静」の湖水の対比を、誰にも邪魔されずに30分以上も眺めていられる。これこそが、スケジュールを自由自在に操れる一人旅の贅沢です。

桐山が泣いてたコンクリートバケット

ダムを眺めながら食す。黒部ダムレストハウスの「黒部ダムカレー」

展望台を下り、ダムのえん堤を歩いた先にある「黒部ダムレストハウス」。ここでのお楽しみは、やはり本場で味わうダムカレーです。

湖面の色を再現した、こだわりのグリーンカレー

以前、大井川で食べた長島ダムカレーも思い出深いですが、ここ黒部のカレーは見た目からして「ダム愛」が溢れています。
目を引くのは、黒部湖の水面をイメージしたというエメラルドグリーンのルー。一口食べると、意外にもスパイシーで本格的な辛さが口の中に広がります。トッピングのカツは「遊覧船ガルベ」をイメージしているのだとか。こうした細かな設定を一つずつ確認しながら食べるのも、一人旅の密かな楽しみです。

巨大建造物の前で、自分を見つめ直す時間

『mono』に導かれて訪れた黒部ダム。 人間が自然をねじ伏せるのではなく、自然の中に人間の知恵をそっと、しかし力強く埋め込んだような。そんな不思議な調和を感じる場所でした。

一人でこの巨大なコンクリートの塊と向き合っていると、「自分の悩みなんて、このダムの放水の一滴にも満たないな」と、妙にスッキリした気分になれました。

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